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■Time Machine 1977-1986 第3回 1977年3月

 先月には米ソの宇宙計画において二つの大きな出来事があったが、翌月となる77年3月10日には、アメリカの天文学者ジェイムズ・L・エリオットら3人の学者によって太陽系第7惑星である天王星に環が発見されている。この発見から200年近く前となる1789年にもイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって天王星の環は確認されてはいるが、その後観測されなかったために存在を疑問視されていた。しかしこの日改めて3人の天文学者によって確認され、翌78年までにさらに9つの環が確認されている。また86年にはアメリカの無人宇宙探査機ボイジャー2号が天王星を通り過ぎる際に初めて直接の撮影に成功し、さらに2つの環を確認した。

 77年3月には、60年代から70年代半ばにかけてのアメリカン・ロック・シーンで一時代を築いたバンドの終焉と、80年代の産業ロックを象徴するバンドの始まりを飾るアルバムがリリースされている。

 77年3月15日、ザ・バンドの7枚目のスタジオ・アルバムにして、オリジナル・メンバーによるラスト・アルバムとなる『アイランド(Islands)』(Capitol / SO 11602)がリリースされた。ザ・バンドは、前76年11月25日に、長年にわたるツアー生活に疲れたロビー・ロバートソンが主導でライヴ活動を終了することを決定し、ザ・バンドとしての最終公演となる“ラスト・ワルツ”と題した公演を行っていた。つまりその後ザ・バンドは、すでに解散状態にあったはずだったが、この時点では公式には解散は発表されていなかった。そのため解散しているか、していないか分からない状況の中でリリースされた『アイランド』は、純粋なニュー・アルバムとして一般的には受け入れられた。実際には、前年に行ったラスト・ライヴを収めた映画『ザ・ラスト・ワルツ』を公開し、そのサウンドトラックとして同名アルバムをワーナー・ブラザーズが発表する予定であったため、キャピトルとの契約で残っていたアルバム一枚の契約を満了する目的でリリースされたものだった。その音源のほとんどは、前作『南十字星(Northern Lights – Southern Cross)』(75年11月)のレコーディング後に同作と同じシャングリラ・スタジオで断続的に行っていたセッションから制作されている。ロビー・ロバートソンがのちに同作がCD化された際のライナーで、ザ・フーの『オッズ&ソッズ』を引き合いに出しているように未発表曲集とも言える一枚だった。そのせいもあって、リリース時にもその後も厳しい評価が多いアルバムで、実際、新曲、カヴァー、インストゥルメンタルとよく言えばヴァラエティがあり、悪く言えば統一感のない内容となっている。とはいえ、特に収録には賛否もあった前年のカーター大統領の選挙戦の応援歌としてレコーディングされたレイ・チャールズのヴァージョンで知られる「わが心のジョージア」、またサム&デイヴで知られるホーマー・バンクスの楽曲「胸にあふれる想い(Ain’t That A Lot Of Love)」の二つのカヴァー曲でのリチャード・マニュエルとレヴォン・ヘルムの泥臭さと哀愁漂う歌声には、ザ・バンドらしさが凝縮されていて、この2曲を聴くだけでもこのアルバムの価値はあるのではないかと感じる。

1.FOREIGNER / Foreigner 2.THE BAND / Islands 3.KRAFTWERK / Trans-Europe Express

 77年3月8日には、70年代後半から80年代にかけて、アメリカで大きなムーヴメントとなったスタジアム・ロックの代表的なグループとなるフォリナーのファースト・アルバム『栄光の旅立ち(Foreigner)』(Atlantic / SD 18215)がリリースされている。フォリナーは、76年、元スプーキー・トゥースのミック・ジョーンズ(g, vo)が、元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルド(g, key, fl)、デニス・エリオット(ds)のイギリス人アーティストと、ルー・グラム(vo)、アル・グリーンウッド(key)、エド・アルガルディ(b)の3人のアメリカ人アーティストとともに結成したグループ。もともとはトリガーというバンド名だったが、すでにトリガーというバンドが存在していたために、3人がイギリス人で、他の3人がアメリカ人である彼らは、どこの国にいてもメンバーの3人は外国人であるということからフォリナーという名前が付けられた。ジョン・シンクレアとゲイリー・ライオンズを共同プロデューサーに迎え、ジョーンズとマクドナルドのプロデュースで、76年11月、ニューヨークのアトランテック・レコーディング・スタジオで制作された本作は、ファースト・アルバムながらもジョーンズやマクドナルドなどすでに十分なキャリアのあるアーティストが揃っていたこともあり、その後の爆発的なヒット作を生む要素が十分に感じられる内容となっている。実際本作からカットされた3枚のシングル「衝撃のファースト・タイム(Feels Like The First Time)」「つめたいお前(Cold As Ice)」「ロング・ロング・ウェイ・フロム・ホーム」はそれぞれ全米4位、同6位、同20位とすべて20位内に入るヒットとなり、アルバム自体も全米4位のベストセラーとなった。しかしフォリナーの成功はこの程度では止まらず、アルバムをリリースする度に勢いを増していき、81年6月リリースの4作目『4』でついに頂点を迎えることになる。

 77年3月には、ドイツ発の音楽クラウト・ロックの代表的なグループであり、テクノ・ポップの先駆者としても知られるクラフトワークの通算6作目となるアルバム『ヨーロッパ特急(Trans-Europe Express)』(Kling Klang / 1C 064-82 306)がリリースされている。クラフトワークは、74年11月に発表した4枚目のアルバム『アウトバーン』で電子音楽をポピュラー・ミュージックに昇華し、すでに世界的な成功を収めていた彼らが全盛期迎えた中で制作されたのが本作だ。タイトル通りヨーロッパで運行されている国際特急列車TEEをモチーフにした本作は、アルバム・タイトル曲をはじめ、「ショウルーム・ダミー」などこれまでの作品にはないほどのポップ・ナンバーが収められていて、彼らが間違いなくその後のテクノ・ポップの祖であることが感じられる一枚となっている。アルバムは、『アウトバーン』ほどの成功は収められなかったものの、本国ドイツでは32位、全英49位を獲得、アルバムからのシングル「ショウルーム・ダミー」も全英25位に入るヒットとなっている。

 77年のこの月にはその他、クラフトワークと同じクラウトロックを代表するグループ、カンの8枚目のアルバム『ソウ・ディライト(Saw Delight)』(Harvest / 1C 064-32 156)がリリースされている。ジャマイカ出身のベーシスト、ロスコ・ジーとガーナ出身のパーカッショニスト、リーバップ・クワク・バーを新たに迎えて制作されたアルバムは、アフロ・ロック・テイストが感じられる内容となっている。

4.T-REX / Dandy In The Underworld
5.ELP / Works Volume 1 6.IGGY POP / The Idiot 7.CAN / Saw Delight 8.PROCOL HARUM / Something Magic

 また3月11日には、T-Rexの通算12枚目のアルバム『地下世界のダンディ(Dandy In The Underworld)』(T-REX / BLN 5005)も発売されている。黄金期のようなメロディが甦り、マーク・ボランらしいサウンドが聴かれる作品だったが、この作品リリースから半年後となる9月16日、ボランは当時愛人だったグロリア・ジョーンズの運転する車で事故に遭い帰らぬ人となったため、本作が彼のラスト・アルバムとなった。

 イギー・ポップのソロ・デビュー・アルバムとなる『イディオット(The Idiot)』(RCA / PL 12275)も77年3月18日にリリースされている。このアルバムは、同年1月発売のアルバムで登場したデヴィッド・ボウイの『ロウ』のレコーディング時に、ボウイとともにフランスのシャトー・エルヴィルで制作されたもので、プロデュースもボウイ自身が手がけている。

 エマーソン、レイク&パーマー(ELP)の5作目となる2枚組アルバム『ELP四部作(Works Volume 1)』(Atlantic / K80009)は3月17日の発売。前作『恐怖の頭脳改革』(73年11月)から約3年半ぶりとなるニュー・アルバムだったが、アナログ盤でのA〜C面はメンバー各々のソロ作品で、D面のみがELPとしての作品となっている。

 プロコル・ハルムは10枚目のアルバム『輪廻(Something Magic)』(Chrysalis / CHR1130)を発表し、久々に面目躍如たるクラシカルでプログレッシヴな組曲「小さな虫と無言の樹の物語」を聴かせてくれたが、このアルバムのプロモーション・ツアー後に惜しまれつつも解散してしまった。